Saturday, September 15, 2007

シェフ

水戸の中心街、とはいえ目立たないところにある一軒のワインバーが気に入っている。グラスで飲めるワインが日によって色々変わることと、料理の水準が高いことが理由。地下の小空間は、無機質なスタイリッシュさを狙っているようでいて適度な温かみがあり、居心地がいい。

久しぶりに昨日行ったのだが、女性ソムリエの表情がちょっと暗い。しかも、ぼくの1杯目のワインを決めたあとすぐに厨房に消えてしまい、出てこない。今まで見なかった男性スタッフが替わりにカウンターに立っている。

やがて戻ってきた彼女から出た言葉に驚いた。「シェフがやめてしまったんです。」

独特の風貌をした若いシェフだった。元々、ホテルのレストランで一緒に仕事をしていた男性ソムリエと共に独立し、このバーを開いたと聞いていた。(女性ソムリエはその後参画)
切れ味のいい料理が、ワイン、そしてこの空間に合っていた。ワインバーでは、ワインが主で料理は従のことが多いのだろうが、ここでは、組み合わせれば立派なディナーになる料理を出していた。サラダの野菜のしゃれた組み合わせや、肉や魚の絶妙の焼き加減には、毎回声を出さずにうなったものだ。前に食べた牡蠣のグラタンなど、火を通した牡蠣としてはぼくが食べた中で最高だった。

やめたと聞いた途端に、レストランに引き抜かれたかと思った。あれだけの腕だ、やっぱり形の上でも料理が主役の店を任されるのなら、そちらに行くかもしれないな、と。
しかし、そうではなかった。
子供がまだ1歳で、家庭を大事にしたい。深夜3時まで営業するこのバーではそれができない。深夜勤務のない、結婚式場に移ったのだという。

「それは残念だなあ」と、思わずソムリエールに言ってしまった。
「将来はレストランをやりたいという気持ちはあるようです。そのためにお金を貯めると言ってました」と彼女。志を捨てるのではもったいないというぼくの思いが見えたのだろう。
しかし、その後で、「でも、ああいうところで仕事をしていると、闘争心がしぼんでしまうんですよね」と付け足した。

決まりきった料理をいかに効率的にたくさん作るかが問われる職場なんかには、早く嫌気がさして飛び出してくれないか、などと、奥さんが聞いたら火を噴いて怒りそうな怪しからんことをつい思ってしまう。
自分では冒険をしないくせに、才能ある若者には冒険してほしいなんて、勝手極まりないのだが。

No comments:

 
Wikipedia Affiliate Button